【WHITE ALBUM2】 雪菜の一番の後悔は春希を奪ってしまったことではない

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エロゲ好きならなら多くの方が一度は耳にしたことがあるであろう名作WHITE ALBUM2

メインヒロインだと私はかずさ派なのですが、基本的に作中で彼女は武也や依緒から「雪菜と春希の関係を応援する上での悩みのタネ」のような扱いです。実際ゲームを進めれば「誰々が一番悪い」などと一蹴できないのが本作品の深さたる所以なのですが、それでも表面上の春希と雪菜の関係を知った人物からは雪菜は被害者というポジションに映ることが多いのではないでしょうか。

雪菜はたとえ裏切られたとしても春希に思いを寄せる「どこまでも性格が良い、一途で、優しく、かわいそうな」女性として見られることが多い印象です。

私はintroductory chapterでの出来事は春希、かずさ、雪菜のそれぞれに非があったことで起こってしまったと考えています。これについては作中でも各々が罪悪感を感じている描写が見られます。しかしここでの、「雪菜の非」の部分は人によってかなり解釈、又は印象が分かれるのではないでしょうか。少なくとも私は春希やかずさの背負っている「罪」とは別ベクトルのものであると感じました。

ここからは私が作品を通して感じたことをつらつらと書いていきたいと思います。

雪菜にとっての「罪」とは

雪菜のパーソナリティを考える上で鍵となるのがclosing chapterのクリスマスイヴです。それまで雪菜は春希や依緒達に対して春希の裏切りは二人に割り込んだ自分が悪かったというスタンスを取っていました。

雪菜はCodaのかずさTrueルートにおいて、春希が例えかずさを選んだとしても3人でいたいとさえ発言しています。雪菜にとって「仲間外れ」が如何に重要であるかがわかります。

  • 自分が仲間外れにならないためにかずさを仲間外れにしてしまった罪の意識

雪菜は文化祭の夜に春希に想いを告げたことに対して、「今ならまだ入り込める余地があった」と述べています。つまり、抜け駆けであるということはある程度理解していたと考えられます。しかし、かずさが2人(この場合は1人と1人)の前からいなくなってしまうというのは完全に予想外だったのではないでしょうか

雪菜にとって仲間外れにされるという行為は何よりも辛いことである。→春希を奪えばかずさが悲しむことは予め分かっていたがそれでも春希が欲しかった。→かずさは3人でいることに耐えられなくなる。→結果雪菜本人が親友であるかずさを仲間外れにしてしまう

雪菜がずっと3人でいることを望まなければ、かずさは限界が来る前に春希への思いを打ち明け、雪菜と親友でいられなくなっても春希を取り合う不倶戴天の敵として完全に仲間外れになることは無かったかも知れません。

この親友を自ら仲間外れにしてしまった事実こそが雪菜の罪ではないかと思います。春希とかずさは自分の気持ちに従った結果雪菜を裏切った。雪菜は2人を裏切らせてしまった。closing chapterで春希が罪悪感から逃げるために雪菜を避けていたように、雪菜もまた春希の裏切りは自分のせいであったと思い込むことで、かずさが身を引いたことの必然性を否定する。彼女にとって最も憎むべきである「仲間外れ」という行為の罪を、抜け駆けをしたという罪が自身にあるとに言い聞かせることで逆説的に認めないという構図になっているのではないでしょうか。だからこそ、自分の非(抜け駆け)を認め春希に歩み寄ろうとしていた雪菜がいざ春希が接近した際に春希を拒絶するあのイヴのシーンは私たちにとっても衝撃的だったはずです。

この罪を忘れるために他の罪で上書きするという行為こそが雪菜の弱さそして一種の醜さだと言えます。春希は自身が傷つきたくないが故に雪菜を避けることはあっても、雪菜への裏切りという罪から直接目を背けることはありませんでした。雪菜を無視し、結果更に雪菜を傷つけているのも、千晶や麻里に逃げていたのも、雪菜に許されていなかったという事実を受けてのものです。かずさも同様で雪菜への罪に対して、春希そして雪菜と離れ離れになるという罰を受け続けています。

プレイヤー目線でもこの罪に対する罰、逃避、或いは償いがかずさと春希は明確であるのに対し、雪菜は少し見えにくいかもしれません。雪菜が抜け駆けした罪を最も悔いているなら、かずさがいない間は春希を求めることはできないはずです。3人の中で雪菜だけは自身の「罪」に対して目を背けています。

3年前の罪に対しておよそ最もストレートに向き合っていたのがかずさです。次いで春希、そして雪菜と続きます。この自分の罪にどれだけ向き合っていたか(誤魔化さなかったか)がCodaでの「自身の弱さを素直にさらけ出せるか」というある種の脆さと重なっているのです。

雪菜の強さと優しさ

私がかずさが好きな理由がこの弱さの部分が一貫して春希を愛する気持ちに起因しているという点です。春希への喜怒哀楽が素直なかずさは分かりやすいですし、男心に守ってあげたいとも思うかもしれません。弱さ故にかずさには自分の恋心を優先するエゴがあります。

一方雪菜はかずさと対照的に見かけは強いのです。本人曰く(確かCoda)「私はそんなに強くない」とありますが、自分の気持ちを書き換えてでも相手を許す雪菜の姿勢は一見すると優しくとても強いものでしょう。closing chapterで雪菜は依緒や武也朋に対しても比較的気丈に振舞っています。私は小春ルートで雪菜が春希の前では笑って別れたのに小春に泣いているのを見られてしまうあの名場面も、3年前の事件を知る人の前では自分の気持ちを書き換えることで気丈にふるまえるが、部外者の前だと雪菜本来の弱さが出てしまうことを暗に表しているのではないかと愚考してみたりする訳です。この周囲へ簡単に弱音を吐かない態度をどう見るかで雪菜の解釈が変わるでしょう。

雪菜の相手を許す優しさはいわば罪の意識から逃げる弱さの裏替えしでもある訳です。雪菜は春希との別れ話を感じ取った時など、本当に追い込まれたときは逃げに徹する傾向があります。ただ、武也にだけは何となくその弱さが露見していたような気がしなくもないです......根拠はないですが。

春希に選ばれたのもあって、当然と言えば当然なのですが雪菜TrueルートでのかずさをCDのレコーディングに引き入れる(仲間にする)時の雪菜は本当に強いです。最終的にはかずさでさえも幸せにしてしまいます(かずさ曰くかずさにとって最高ではないが、3人の幸せの平均値が一番高い)

かずさが雪菜を避けている傾向があるのに対し、雪菜は春希曰く「雪菜がかずさに会えたらきっと喜ぶだろう(ストラスブール)」とあるようにかずさを仲間に引き入れようとする気持ちがありますよね。だからこそ雪菜にとっての最もトラウマとなりうるのは、ただ春希が裏切るのではなく、同時にかずさ、そして春希が離れていくことなのです。

そう考えるとかずさTrueルートは雪菜にとってこれ以上ない程残酷です。

これらの推測から導き出される雪菜の本当の願いとは、かずさが戻ってきた状況で正々堂々春希を勝ち取り、かずさと再び親友に戻ることだったのではないでしょうか。

見苦しい文章でしたが、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。